東京地方裁判所 平成3年(ワ)906号 判決 1991年10月25日
原告 平安ビル株式会社
右代表者代表取締役 牧山烝治
右訴訟代理人弁護士 佐野洋二
被告 永楽信用金庫
右代表者代表理事 小池要
右訴訟代理人弁護士 大井勅紀
主文
一 別紙物件目録の土地を別紙分割目録のとおり分割する。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一請求
主文第一項と同旨
第二当事者の主張
(本訴)
一 請求原因
1 別紙物件目録の土地(本件土地)は、原告が八分の四、被告が八分の四の持分を有する共有物である。
2 原告は、被告に対し、平成三年一月九日、本件土地を分割するよう請求したが、両者間に協議が調わない。
3 よって、原告は、民法二五八条一項に基づき本件土地の分割を請求する。
二 請求原因に対する認否
請求原因事実は、全部認める。
三 抗弁
1 共有物についての債権の承継
(一) 本件土地は、田中昭及び田中克己(以下、「田中ら」という。)と被告がもと共有していた。
(二) 被告は、田中らとの間で、昭和五三年四月三日、本件土地を互いに双方が所有している奥の駐車場への自動車の通路として使用する旨の合意(本件合意)をした。
(三) 原告は、被告が田中らと本件合意をした後に、田中らから本件土地の共有持分八分の四を買い受けた。
(四) 原告は、右買受けにより本件合意に基づく被告に対する債務を承継した。
2 信義則違反
本件合意につき登記がされていないとして、原告の分割請求を許すと、被告は奥の駐車場への自動車の通路を失うこととなり、原告が本件合意を一方的に破棄する結果を招くことになるので、原告の本件分割請求は、信義則に反し、許されない。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1について
(一) 抗弁1の(一)及び(二)の事実は、知らない。
(二) 同1の(三)の事実は、認める。
(三) 同1の(四)の主張は、争う。本件合意は、本件土地を奥の駐車場への自動車の通路として使用させることを内容とするものであって、取りも直さず、本件土地について分割の禁止を求めるものにほかならないところ、被告は、その旨の登記をしていない。
2 抗弁2の主張は、争う。
五 再抗弁
不分割契約の期間の経過
1 原告が、本件合意に基づく債務を承継したとしても、被告と田中らとが本件合意をしてから五年が経過した。
2 よって、原告の本件分割請求は、本件合意にかかわらず、許されない。
六 再抗弁に対する認否
1 再抗弁1の事実は、認める。
2 再抗弁2の主張は、争う。
七 再々抗弁
信義則違反
原告の本件分割請求を許すと、被告は奥の駐車場への自動車の通路を失うこととなり、原告が本件合意を一方的に破棄する結果を招くことになるので、原告の本件分割請求は、信義則に反し、許されない。
八 再々抗弁に対する認否
再々抗弁の主張は、争う。
理由
一 請求原因について
請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
二 抗弁1について
1 抗弁1の(一)の事実は、甲第一号証から認められる。
2 同1の(二)の事実は、乙第二号証から認められる。
3 同1の(三)の事実は、当事者間に争いがない(原告が、田中らから本件土地を買い受けたのは、甲第一号証から、昭和六二年一一月二六日と認められる。)。
4 同1の(四)の主張の当否について検討する。
(一) 本件において、本件合意に基づく共有物に関する債権は、本件土地を奥の駐車場への自動車の通路として使用させることを内容とするものであって、取りも直さず、本件土地について分割の禁止を求めるものにほかならない。したがって、本件において、民法二五八条一項(二五六条一項本文)の分割請求権と同法二五四条の共有物についての債権の承継との優劣が問題となる。
(二) 共有者の内部関係の規律は、原則として共有者の意思に委ね、それに紛争が生じたときは、終局的には分割請求権を行使して、何時でも共有関係を解消できる(同法二五八条一項)。そして、この共有物分割の自由に対する例外として共有者は分割禁止の契約をすることができる(同法二五六条一項ただし書)。しかし、その期間は、五年を超えることはできず(同条一項ただし書)、また、この契約は、更新することができるが、その期間も更新の時から五年を超えることはできない(同条二項)。そして、この分割禁止の契約は、不動産については、その旨の登記をしなければ、共有者の特定承継人に対抗できない(不動産登記法三九条の二)。このように、共有物分割禁止という物権的な合意が、期間的に制限され、公示が要求されているにもかかわらず、分割禁止の契約と同様の効果を生ずる共有物についての債権的合意が、特定承継人に対して、公示することもなく、また期間の定めもなく永続的に対抗することができ、その結果、共有者が分割の請求をすることができないとすることは、分割請求権を認め、不分割契約に制限を設けた法の趣旨に反するものである。したがって、分割禁止の契約と同様の効果を生ずる共有物についての債権的合意は、不動産登記法所定の登記をして初めて、共有者の特定承継人に対抗でき、しかも、その登記をしても、その不分割の契約の期間は五年を超えることができないというべきである。
(三) そうだとすれば、前記のとおり分割禁止の契約と同様の効果を生ずる共有物についての本件合意は、不動産登記法所定の登記がされていないので、本件土地の共有者の特定承継人である原告に対抗できない。
5 結局、抗弁1は理由がない。
三 抗弁2について
確かに、原告の本件分割請求を許すと、被告主張のとおり被告に酷な結果を招くことになるが、右二で検討したところに照らすと、右の結果もまたやむを得ないところであり、その他、本件全証拠によるも、原告の本件分割請求が信義則に反し、許されないとする特別の事情も認められない。
したがって、抗弁2も理由がない。
四 以上の次第で、その余(再抗弁及び再々抗弁)について、判断するまでもなく、原告の本訴請求は、理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、主文のとおり、判決する。
(裁判官 宮﨑公男)
<以下省略>